文月悠光

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2021.12.24

坂東祐大×文月悠光「声の現場」
Voices on-site Sound installation


2021年より、作曲家・坂東祐大と初のサウンドインスタレーション作品「声の現場」を発表。TOKAS本郷での展示、京都芸術センターでの公演など発表形態を変えながら、「声」を用いた詩の表現、音楽表現を追究している。

 

坂東祐大×文月悠光「声の現場」
OPEN SITE 6|TOKAS推奨プログラム


 

Photo: TAKAHASHI Kenji, Photo courtesy of Tokyo Arts and Space

 

 

Exhibition Statement

 

「声の現場」に寄せて          文月 悠光

 

 

 2020年の頭から、クラウドのメモ帳に日記をつけはじめた。偶然にも、非常事態宣言下の東京を記録することとなった。聞き慣れない言葉が日々のニュースを席巻し、スローガンと化し、日常を侵食していく。混乱の中、「ステイホーム」を余儀なくされた私は、日々の微細な差異を記録することで、なんとか自分の日常を守っていた。

 今回の企画に際し、坂東祐大さんに日記を元にしたテキストを読んでもらったとき、なぜ日記にニュース記事を併記しているのかと不思議がられた。とりとめのない個人の記録は、大きな出来事と並列させることで、他者と体験を共有しやすくなる。そう直感し、目に留まったニュース記事を日記に引用していたのだ。出来事が忘れ去られる前に、それぞれの記憶の位置を確かめておきたかった。

 

 感染拡大の危機を「パラレルワールドのようなもの」と形容されたとき、では自分が生きるこの世界は何なのか、自分の存在も含めて誰かにとっての「並行世界」とされたことに大きなショックを受けた。だが、想像も膨らむ。私たちは虚実の狭間を生きているのだ。もし日本にいなかったら? もし2020年代にコロナ禍が到来しなかったら? そんなパラレルワールドを、作品の中で自由にしぶとく描き切ってみてはどうか。それは遠くにいる誰かと繋がる行為かもしれない。

 

 展示にあたり、私以外の5名にもテキストの朗読をお願いした。知人もいれば、初対面の方も。作者個人の心情や制作背景を知らない他者が読み上げると、言葉は生き生きと躍動し、新鮮味を帯びた。日記という他ならぬ私の声でありながら、私の声ではない5名の声から、テキストに思わぬ表情が付与された。さらに坂東さんの手により、音楽の側面から、表現の可能性を大きく切りひらいていただいた。

 

 言葉もコロナの影響は免れない。「距離」「宣言」「行列」「配布」「接触」など、一部の言葉の印象が大きく変容した。2011年の東日本大震災及び原発事故直後、「波」「光」「雨」などの語彙の手触りが一変したように。それは、私たちが災禍の時代を生き延びてきた証でもある。

 

 この「声の現場」を歩きながら、あなたの生き延びた証を見つけていただけたら嬉しい。

 

 


 

声の現場 (2021)
Voices on-site
Sound installation

 

Text:文月悠光 / Yumi Fuzuki

Sound Editing: 坂東祐大 / Yuta Bandoh

 

朗読:

#1 中村みちる / Michiru Nakamura

#2 牧村朝子 / Asako Makimura

#3 文月悠光 / Yumi Fuzuki

#4 細川唯 / Yui Hosokawa

#5 矢部華恵 / Hanae Yabe

#6 涂櫻 / To Sakura

音響施工:後藤天 / Ten Goto

Special thanks: 中川ヒデ鷹 / Hidetaka Nakagawa

バナーデザイン:今垣知沙子 / Sachiko Imagaki

撮影:屋上

 

会期:2021年12月24日(金) – 2022年1月16日(日)

会場:トーキョーアーツアンドスペース本郷 スペースC (3F)

TOKAS担当:内山史子 / Fumiko Uchiyama、小野洵子 / Junko Ono

主催:公益財団法人東京都歴史文化財団東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペース

 

言葉と声、物語と唄、語り手と文体――テキストが持つさまざまな特性を生かした、詩人と作曲家によるサウンド・インスタレーション。誰かの日常や断片的な記憶は、きわめて個人的な「声」であると同時に、普遍的な響きを提示する。個々の語り手は、異なる時間・状況に置かれながらも、奇妙な重なり、不思議な共鳴を見せる。この災禍の時代を、詩と音楽によって鮮やかに記録する。

 

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